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人事のノウハウ

普遍性とフレキシブルさを持ち合わせた「等級制度」のつくり方

人事のノウハウ

人事制度全体の骨格とも言える「等級制度」。ここが明確であればあるほど、社員はキャリアイメージを描きやすくなり、企業は人事戦略が組みやすくなるなど、双方に多くのメリットがあります。

しかし、変化のスピードが加速している現代においては、どれだけ明確な等級制度をつくってもすぐに現状にマッチしなくなることがあります。普遍性を持ちつつも、フレキシブルに変化できる制度づくりが求められています。

そこで今回は、大企業と成長企業それぞれにおいて、経営戦略と連動した人事制度改革の実績を持つパラレルワーカーの方にお話を伺い、普遍性が高くフレキシブルに運用できる「等級制度」の考え方などをお伺いしました。

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等級制度とは

──等級制度の定義を改めて教えてください。

企業が従業員の給与を決める上での格付けを、数字やアルファベットなどで表したもの

これが等級の定義です。このレベル感を定める上での根拠としては、保有しているべき能力、果たすべき役割、担う職務(仕事)などがあり、昨今は欧米文化に近い、業務・仕事の観点から定義を行うケースも増えてきました。

このレベル感を上下動させる仕組みを昇格・降格と呼び、それぞれどのような基準や頻度で実施するかを具体的に決めていくことを評価制度と呼びます。また、等級・評価制度をもとに具体的な給与・賞与を決定していく仕組みが報酬制度です。

各年度の評価結果を元に時間をかけて昇格を検討する場合もあれば、逆に評価は賞与のみに反映し、昇格・降格はあくまでも担う仕事・業務で常に変動するような設計も可能です。

この昇格・降格にアジリティ(機敏性)を持たせるか、コンサバティブ(保守的)に設計するかによって、長期的な企業カルチャーへ大きな影響を与えます。伝統的な大企業などがジョブ型に転換する際、慎重な姿勢を示すケースが見られますが、これは経営者が守ってきた企業カルチャーを壊す可能性があるということを直感しているからなのかもしれません。

このように等級制度は、単に社員を等級で格付けし給与を決めるだけのものではありません。どのように等級を変動させていくのかといった設計思想と仕組み次第で、企業を「変革」もしくは「破壊」できるだけの影響力を持つものなのです。

等級制度を策定するメリット・デメリット

──影響力の大きい等級制度を策定するメリット・デメリットは何でしょうか?

それぞれ大きく2つずつのメリット・デメリットがあります。

<メリット>

①要員計画と人件費予算が策定しやすくなる
②従業員が今後のキャリアを考える上でのガイドラインとなる

<デメリット>

等級により階層が生まれ、
①組織のアジリティ(機敏性)が損なわれる
②従業員の評価に対する納得感が欠如しやすくなる

これらのデメリットを抑えるためには、評価制度・報酬制度とバランスよく設計していくことが重要です。ただ、等級制度には統一規格や公式などはありません。会社ごとに業務内容や状況は異なるため、各社が独自に評価基準を検討し整備していく必要があります。この段階でつまずいてしまうケースも少なくありませんが、自社の状況にフィットしないものを形だけ導入しても円滑に運用していくことはできないので、さまざまな事例や他社情報を集めながら自社に適した形を探り、時間をかけて構築していくことが重要です。

一方、最近のティール・ホラクラシー組織を志向する企業の一部では「人事制度としての等級を定めずにプロジェクト内の役割に応じて適切な給与に変えていく」という考え方も生まれてきています。

例えば、以下のようなケースです。

・家族との時間を優先したいので、今回のプロジェクトでは裏方に回り、給与は抑えめにしてもらう
・メンバー構成上、アドバイザー的な立ち位置になる代わりに給与は抑え、空いた時間でチャレンジングな副業に従事したい

ただし、このやり方がどんな企業であっても適応するわけではありません。「個々人が比較的成熟した技能・思考・マインドを持っている」ことが求められる点に注意が必要です。

以上のことから、未経験者から育てていくことを前提に人事を考えるのであれば等級制度は必要です。また、採用・育成計画や人件費予測をしっかりと行いたい企業にとっても非常に使い勝手が良い制度だと言えるでしょう。

等級制度の具体的なつくり方

──等級制度を初めてつくる、もしくは変更する際に、どこから手をつければよいでしょうか。階級の付け方、役職との関係性、運用に乗せるための設計方法などの作り方を教えて下さい。

ある程度外部水準を意識するのであれば、各業界の標準的なタイトル・役職をリサーチした上で自組織の編制基準に照らし合わせて、まずは階層(レポートライン)を整理するケースが大半です。

次に、その階層ごとの違いをどのような物差しで表していくのかを検討します。これが冒頭でも記載した「能力、役割、職務(仕事)」の観点です。それぞれにメリット・デメリットはありますが、時間をかけて育てることを重視するなら能力、アジリティを高めて行きたいのであれば職務となり、その折衷的なものが役割になります。さらに管理監督者以上を職務、メンバークラスは能力とするなど、等級の中で分けるケースもあります。

次に検討するのが「職群」や「職種」です。

テクニカルには色々な設計が行えますが、重要なのは従業員から見た時のわかりやすさ。細かく分ければ分けるほど運用の難易度やメンテナンスの煩雑さが上がっていくという弊害もあるため注意が必要です。職種ごとの具体的な定義とするか、汎用性を重視しシンプルにマネジメントとメンバーの区分けだけにするか、このどちらかを選択することが多いです。

この選択の判断軸は「主たる事業を支える職務の特性」にあります。例えば、システムエンジニアなどの場合、フロントエンジニアとインフラエンジニアでは担う業務も求められるケイパビリティも異なるため、当然分けて定義するべきです。ただしこの場合も、等級数やそのレベル感は整合性を取っておくことが重要です。

図)等級制度の具体例

等級制度を変えるタイミングとその方法

──等級制度を変えるタイミングはどんな時でしょうか。また制度をアップデートする方法や頻度などについても教えてください。

制度改定のタイミングとしては、以下のようなものがあります。

・企業のフェーズが変わった時(事業成長に合わせる)
・大きく人員構成や人件費構造を見直したい時(人件費を適正化する)
・M&Aなどによりグループの整合性をとる時
・経営者が変わった時(経営の考えを組み込みたい)
など

わかりやすい例を1つ上げると、「スタートアップ企業がシリーズAで資金調達などを行い、事業を加速させるために採用を強化するタイミング」です。新たに採用する上では労働条件を提示していく必要があり、この際の基準を用意しておくことで先々の報酬のばらつきを抑えたり人件費の組み立てが容易になったりします。

このケースにおける制度ブラッシュアップのタイミングは、「シリーズAの調達以降、PMF(プロダクトマーケットフィット)も順調に推移し本格的にIPOへ向けた体制を整備する、事業を複線化させる、新卒採用を開始するなど新たな人材を必要とする時」が一般的です。この際、徐々に等級数を増やしていくことが多いのですが、大幅に見直さずに済むように基本構造を制度設計時に想定しておくことが重要になります。初めは大きい括りの等級構造としておき、徐々に細分化する、といったやり方がその1つです。

等級制度のアップデート事例

──これまでに行った等級制度のアップデート事例について、その課題・変更点・効果なども含めて教えてください。

ある会社が社員100名規模を超える段階で人事制度の改定を行った際、コンサルティング会社に依頼したものの内容がうまくフィットせず、等級制度を再構築することになりました。

内容がフィットしなかった理由は、「制度改定を主導したコンサバティブな経営陣」と「成長企業としてのカルチャーに期待する従業員」の間で乖離が生じてしまった点にあります。

この課題を踏まえた上で重視したのは、「できるかぎりわかりやすくシンプルな等級にする」ということ。経験や能力を勘案して会社からの期待値が高くなれば昇格し、低ければ降格もありえる、といったものでした。これを実現するためには一定削ぎ落とさざるを得ないところもあり、給与の移行が難航することが予想されたことから、移行プランの設計と個別コミュニケーションにも注意を払いました。

効果としては、パフォーマンスの良い従業員からの報酬水準や昇格に関する不満を減らすことができ、特に若手の成長意欲が高まりました。反対にパフォーマンスが発揮しきれていなかった従業員が会社を離れるケースもいくつかありました。

ここは企業やフェーズによっては良し悪しの判断が分かれるところかもしれませんが、このケースで人事制度改定の目的にしていた、「成長企業としてのカルチャーに期待する従業員との乖離を埋める」という点において達成ができた事例となります。

編集後記

「細かく分ければ分けるほど運用の難易度やメンテナンスの煩雑さが上がっていく」

従来の年功序列的な組織であれば、等級制度もシンプルなものを用意しやすく、従業員からの納得度もある意味得られやすかったのかもしれません。

しかし、働き方や人材の多様性を受け入れる中では、どうしても等級や制度が複雑になりがちです。より複雑性を増す中で、いかにシンプルかつ意志のある制度を用意できるか。そのベースにはやはり「会社ビジョンやカルチャー」が大きく影響するように感じました。

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