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企業インタビュー

「正社員ゼロでも事業・会社はつくれる」業務委託社員を中心とした組織のつくり方

企業インタビュー

日本のフリーランス人口は2018年時点で1,119万人(※1)と、労働力人口の15%を超えるまでに増加しました。
その中でも「複業系パラレルワーカー」と呼ばれる方々は、全体の大半(454万人)を占めるまでに成長しています。
一方で、業務委託人材を活用する企業はまだまだ少なく、その受け皿は限定的です。

そんな中、創業から2年間“正社員ゼロ”で事業運営を行い、関係者が300名近くなった今でも正社員比率は4%程度で事業・プロダクトを成長させ続けている企業があります。
2017年6月に創業した株式会社overflowです。
どのようにして「業務委託社員を中心とした組織」をつくり上げたのか。代表取締役CEOの鈴木さんに、その背景や方法論をお聞きしました。

※1:ランサーズ実態調査より

<プロフィール>
鈴木 裕斗(代表取締役 CEO)
株式会社サイバーエージェントに新卒入社。広告営業を経て、Amebaプラットフォームの管轄責任者に就任。その後、iemo株式会社に入社、代表取締役就任を経て2ヶ月後に株式会社ディー・エヌ・エーにM&A、子会社化。iemo株式会社代表取締役とDeNAキュレーションプラットフォームの広告部長を兼任。2017年6月、株式会社overflowを創業。2018年よりエキサイト株式会社社外取締役を兼任。

「創業から2年間正社員ゼロ」の背景

──創業当初から、今のような組織形態をイメージしていたのでしょうか。

いえ、決してそういうわけではありませんでした。
overflowの創業メンバーは私を含めて3名。サイバーエージェント在籍時に一緒にプロダクトづくりをした仲で、私がプロダクトマネジャー、田中がフロントエンドエンジニア、大谷がバックエンドエンジニアだったこともあり、自然とプロダクトアウトな会社が出来上がりました。

起業当初から1つだけ設けていたルールがあって。それは「プロダクトがマーケットフィットするまでは、外部資金に頼らず自立する」というもの。
まだコミットするべきプロダクトすら決まらない段階で外部資金を入れてしまうと、方向性が制限されてしまうと考えたからです。
実際に、最初に手掛けたのは金融系のサービスでしたが、そこから紆余曲折あり、今や「Offers(副業・複業マッチングプラットフォーム)」が主力事業になっています。

この考えは人材においても同様でした。例えば金融サービスを手掛けていた時に外資銀行出身者にジョインしてもらったとしても、プロダクトが変化すればその方のスキルセットとは合わなくなる可能性が高くなります。
事業の変遷と共に人材要件は大きく変わるため、「変動型の組織(フレキシブル経営)」を持っておいた方が事業合理性は高いと考えたわけです。
また、私が過去の経験から、「物理的距離が離れていても、正社員じゃなくても事業運営はできる」という肌感覚が持っていたことも、今のような組織形態になった背景にはあったように思います。

最初はボードメンバー3名のつながりで事業に協力してくれる方を探していきました。
リファラル採用はアプローチできる人脈によって成果が大きく左右されますが、元々サイバーエージェントやDeNA、メタップスなどに在籍していたメンバーばかりだったこともあり、当社事業にマッチした方にアプローチしやすいというアドバンテージがありました。
とはいえ、正社員採用だけにこだわっていたら、ここまで優秀な方にジョインいただけなかったはずです。

今でこそOffersがメイン事業として確立できていますが、それまではコミットできるプロダクトもなく、売上も少ないという暗中模索状態。
プロダクトをつくっては潰してのトライ&エラーを繰り返しながらも、その時々に合わせたスキルを持つ方が「私でよければ手伝うよ!」と言ってくれて。
結果的にすべてのプロダクトを業務委託メンバーのみでつくることができました。
この経験があったからこそ、副業・複業へのポテンシャルを痛烈に感じ、「副業でも事業はつくれる。会社もつくれる」という確信を持つことができ、これがOffers開発に至る原体験となりました。

企業側から見た「副業・複業の可能性」

──「副業・複業へのポテンシャルを痛烈に感じた」とありますが、組織の柔軟性を高める以外にもどんなメリットを感じたのでしょうか。

まず大きな点としてあるのが「採用力の向上」です。
就業人口は減少し、有効求人倍率が上がり続ける採用マーケットにおいては、採用の成否が事業運営にもダイレクトに影響します。
この流れは今後も続くことが予想されるため、いつまでも転職・正社員採用前提のままやり方を変えずにいては、事業を存続させることすら難しくなってくるでしょう。

そこで有効なのは「外部人材の活用」です。2020年7月にヤフーが「ギグパートナー(副業人材)」募集を行い、4500名以上が応募するなど注目を集めました。通常、これだけの応募者を集めようとすると、人事の人件費も含めて数千万円~数億円規模のコストと時間を取られます。
しかし、ヤフーが行ったのは「副業・複業からでもヤフーで働けますよ」というシンプルなメッセージ変更。それだけ副業・複業に興味を持っている方は多いのです。

採用もセールス同様、母集団獲得(リード)→面談・面接(ナーチャリング)→採用(コンバージョン)という流れに変わりはありません。
「外部人材を活用する」ことで、アクセスできる母集団は正社員募集の比ではなくなります。かつ、そういった働き方を希望する方は専門性の高い方が多いため、より優秀な人材にジョインいただくことができます。このことに気づいている企業はまだ多くありません。
しかし、どの企業も避けては通れない問題であることは間違いなく、近い将来で対応を迫られることになるはずです。

また、当社に関与いただく方は全員、まずは副業・複業から仕事を始めてもらうようにしています。
どれだけ「いいな」と思える方であっても、一緒に働くことで双方にマッチング度合いを確認して欲しいからです。入社してから気づくのでは遅いので。この取り組みによってミスマッチがなくなることはもちろん、入社後のパフォーマンスが向上するという効果もあります。

外部人材が働きやすい環境を用意するには

──外部人材を活用しようと考えた企業は、どんなところから手をつければよいでしょうか。御社で実際にやられてきた事例も踏まえて教えてください。

大きく「採用前」と「採用後」に分けてご説明します。

■採用前(採用要件の定義)

まず、外部人材活用においては「採用要件の解像度を高める」ことが重要です。なぜなら、正社員採用よりもより細かくミッションやタスクを切り出していく必要があるためです。

特にスキルの定量化が難しいIT領域などでは、元々3名で募集をかけていたポジションも、より採用要件の解像度を上げていくと実は5~6名必要だった──なんてことがよくあります。これは外部人材に限りませんが、正確な要件定義なしには必要な人員を計算することはできません。人事だけで難しければ現場のエンジニア、テックリードの方、その領域の採用エキスパートの方などと連携しながら、正しく要件定義することがまずは求められます。

当社の場合、「最速でクオリティの高い自社プロダクトをつくるにはどうすれば良いか」を念頭に置き、そこから採用要件を定義し、そのポジションにマッチした働き方を「コミットレベル」で3段階に分けて考えていく形をとっています。

①full(フル)…週5日関わってくれる方

②flexible(フレキシブル)…週2~3回程度関わってくれる方

③partner(パートナー)…期間も限定されていて、スポットで助けてくれるコンサル的な方

プロジェクト進行やチームマネジメントはフルじゃないと難しいよねとか、「このタスクだけ非同期に開発して納品してほしい」と切り出せる仕事ならフレキシブルでも大丈夫だねとか、目的やミッション、または社内リソースとのバランスも見て、どれくらいコミットしてもらうべきポジションなのかを決定しています。

フル・フレキシブル・パートナーの割合バランスは、事業内容やフェーズによっても異なります。
例えば当社のデジタルマーケティング事業であれば、1記事つくるのにどれくらいの人数がタッチするかが定量化できているため、フレキシブルメンバーが中心の運営になっています。
反対にOffersはまだ発展途上にあることもあり、30名ほどで構成されるメンバーのバランスがどうなると適正なのかを模索しながら運営しています。

■採用後(多様なメンバーのマネジメント方法)

前述した通り、副業・複業希望者は世の中に一定おり、採用競合となる企業も少ないことから、外部人材を採用すること自体は現状そこまで難しくありません。
採用要件さえ明確に定義できれば、それに応じた人材を採用することは比較的容易にできるはずです。

難しいのは採用後。「採用したメンバーが最大限パフォーマンスを発揮してもらえる環境を企業側が準備できるかどうか」が大きなポイントになってきます。
そもそも外部人材には優秀な方が多いため、そういった方がより当社の事業にコミットしてくれる時間を増やし、そこでの生産性を高めることができれば、結果自社プロダクトの爆速成長につながります。

その上で必要なのが、「採用形態やコミットレベルに関わらず、分け隔てない環境を用意する」ということです。
例えば、正社員しかアクセスできない領域があったり、外部人材では持てない権限があったりなど、少しでも雇用形態を意識せざるを得ない要因があると、どうしても一部の方が情報格差と劣等感を感じてしまいます。

その点、当社では私自身も各自の雇用形態をはっきりと把握しきれていません。
あくまで先ほどご紹介したコミットレベルに応じて関与度を決めているだけで、「私、業務委託なんです」と言われるまではわからないのです。
これは私だけでなく、メンバー全員が互いの雇用形態を聞くまでは意識しないほどフラットな環境になっています。

創業からこれまで、基本的にこの「1人ひとりのパフォーマンスをどうやってあげるか」ということだけを考え続けてきました。
その上でトライ&エラーを繰り返し、ドキュメントに落とし込んできたことすべてがこの「フレキシブル経営」を支える礎になっています。

overflowが目指す今後の姿

──今後、今の組織をどうしていきたいと考えていますか。

現状300名近くのメンバーに関与してもらっていますが、ここを400名、500名と伸ばしていくつもりはありません。
そもそもこれまでの道のりも、事業成長に必要な人員を探していたら今の規模になっただけ。基本的な考え方はこれからも変わらないと思います。

これまでと変わる点としては、社内コア人材をより強固にしていくフェーズであること。現状、フレキシブルメンバーの割合が多くなっていることから、フルメンバーのディレクション時間が増え忙しくなっているため、よりコミット量の多いメンバーを増やして組織を筋肉質にしていくことが狙いです。

また、当社のように外部人材を活用する企業をもっと増やすことにも挑戦していきます。
国が制度などで後押しすることも大切ですが、企業が受け入れ体制を整えることができなければ、副業・複業がこれ以上浸透することはないでしょう。
適材適所を会社内に留めず、社会全体で「共有」する世界に向けて、私たちが先陣を切って実践してきたことをOffersというプロダクトも通じて伝播していきたいです。

編集後記

正社員ゼロで事業やプロダクトをつくる。インタビューするまではイメージしきれない部分も多かったですが、お話を聞けば聞くほど合理的かつ今のマーケットにフィットしたやり方だと感じるようになりました。

「あくまで最速かつ最高のプロダクトをつくるための手段」と鈴木さんが話すように、フレキシブル経営化を目的とするのではなく、来るべき未来における自社目標達成に必要な方法論として、常に念頭に置いておくべき考え方なのではないでしょうか。

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