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企業インタビュー

「ヒエラルキー型組織からの脱却」の裏側にあった苦悩と、そこから生まれた成果とは

企業インタビュー

リモートワークなど働き方が大きく変化する中で、社員のモチベーションや評価などの人事的課題に頭を悩ませる企業は少なくありません。それに合わせて「VUCAに対応する組織づくり」といったテーマで、ティール、ホラクラシー、フラットなどの新しい組織形態が語られることも増えました。

そんな社会背景もあり、「典型的なヒエラルキー型組織からの脱却」に成功したある企業に注目が集まっています。それが、後払い決済サービスなどを手掛けるネットプロテクションズ(以下NP)です。

「Natura」という人事評価制度を2018年4月に導入し、組織の成果と社員1人ひとりの幸福を両立できる理想の組織へと改革を進めたNP。今回はその改革を主導した執行役員の秋山さんに、裏側にあった苦悩とその後の成果について話を聞きました。

<プロフィール>
秋山 瞬/株式会社ネットプロテクションズ 執行役員
2005年に設立2年目の人材系スタートアップ企業に新卒1期生として入社。ベンチャー企業の経営幹部層に特化したヘッドハンティング・人材紹介に従事。新規事業立案や関西支社設立にも携わった後、「次世代を担うリーダー創出」を志し、2009年 ネットプロテクションズの人事として参画。主事業である「NP後払い」決済のセールスグループゼネラルマネージャーを経て、2017年に執行役員に就任。2018年にはマネージャー職を廃止した人事評価制度『Natura』をリリース。人事総務グループと企業アライアンスを行うビジネスディベロップメントグループを兼務し、事業・組織双方で「つぎのアタリマエ」づくりを目指す。

新人事評価制度「Natura」の導入背景

──2018年4月にリリースされた新人事評価制度「Natura」ですが、その導入背景を教えてください。

背景には大きく2つの目的がありました。

まず1つは「組織構成上の課題解決」です。2018年4月時点で128名の正社員がいましたが、うち半数以上が新卒3年以内の若手という状態で。結果的にミドルマネジメントへの負荷が大きくなり、その対策が必要でした。

もう1つは「理想とする組織づくりへのトライ」です。NPのミッション「つぎのアタリマエをつくる」を実現するためには、世の中にまだないものを生み出し続けることが必要です。その土壌となる組織や人が自ら進んで行動できないようでは、ミッションの実現はできません。そこで2013年頃から進めてきた土壌・文化づくりをより一層推進するべく、人事評価制度もそれに合わせて変更しようとなったのです。

この2つの前提に立ち、まず私たちが考えたのは「理想の人事評価制度」。そこで生まれた考えが、「全メンバーの成果・成長・幸福を高レベルで両立できる制度」というものです。従来のヒエラルキー型組織にあった競争意識や上下関係は必要なくなり、メンバー間の協調促進・心理的安全性の醸成が求められるものでした。

組織と社員が対等の立場に立ち、組織の成果と社員の自己実現を両立する。そんな理想的な組織のあり方を目指して導入したのが、この「Natura」です。

組織の成果と社員の幸せが両立する人事評価制度「Natura」とは

──具体的に「Natura」とはどんな制度なのでしょうか。

Naturaには大きく3つの特徴があります。それぞれの実施背景と合わせて紹介しましょう。

(1)役割のフラット化

具体的には「マネージャー職を廃止」しました。ただ、廃止というよりも「全員がマネージャーのような状態になる」といった方が分かりやすいかもしれません。実際に社内で「マネージャーを廃止する」と伝えた時もみんな最初はポカンとしていましたが、「全員がマネージャーになろう」と伝え方を変えるとすんなり納得してもらえました。

全員がマネージャーのような状態になれば、従来の管理型のマネージャーは必要なくなります。ただ、どうしてもオープンにしきれない機微情報に関しては、「カタリスト」という役割を設置して情報・人材の采配権限を持ってもらうことにしました。カタリストは各グループ内のメンバーによる話し合いで決定し、固定ではなくシチュエーションによって流動します。私たちのフラットの定義は、「固定的なヒエラルキーが存在しない状態」。まさにそこに沿った役割なのです。

(2)評価の主旨を「報酬の適正分配」から「成長支援」へとシフト

ヒエラルキー型の組織では、よく1on1などを通じて目標設定や評価を実施していくことがあります。しかし、1on1の実施目的には「成長支援」という観点もあり、それらが混在してしまうと目標に沿ったものだけ取り組んで、それ以外はやらないという行動につながりがちです。これは私たちの考える理想の状態ではありません。

そこで目標設定・評価と成長支援は完全に切り離し、成長支援だけを目的にした形で1on1を実施する形にしました。そして面談相手を毎月変えることで、いろんな視点から成長支援を行うことができるようになります。また面談内容はすべて記録され、その成長の軌跡が評価に反映される形です。

(3)フェアな報酬ポリシー

よりフェアな形で報酬を決めるために、「360度評価の実施」「全社員のグレード開示」を行いました。グレードは5段階のバンドで構成され、新卒はバンド1からスタート。360度評価によって基準を満たしていることが確認されたら、上位バンドへ上昇できるという仕組みです。

他の社員のバンドも分かるため、「目指すバンドに上がるためにはどうすればよいか」が可視化されるというメリットがあります。ゆくゆくは「これだけやるので、これくらいの報酬をください」と給与を自己決定するところまで持っていけたらと考えています。

制度改定の裏にあった苦悩と行動

──評価に関わる組織制度を変革するには、相当な苦労があったと思います。実際にどんなところが大変だったのでしょうか。

よく「制度リリースしてから大変だったでしょ」と言われるのですが、実はそこよりもリリース前に約5年かけて地道に社内文化をつくってきた時の方が大変でした。
NPの創業からこれまでをフェーズ分けすると、以下4つに分けられるのですが、ちょうど③の変革期にあたる時のことです。

① 創業期(2001年~2007年)
② 拡張期(2008年~2012年)
③ 変革期(2013年~2016年)
④ 飛躍期(2016年~)

元々NPも典型的なヒエラルキー組織として創業期・拡張期を戦い抜いてきましたが、社員が50名近くなった2013年頃に、いよいよMIssion・Vision・Valueを固めていく必要性を感じました。そこで全社員を6~7名×8チームに分け、3カ月かけてビジョンの元となるアイデアを出し合い、その後、各チームから集まった代表者と経営メンバーの計10名で9カ月かけて内容をまとめ上げていきました。(それが現在の以下7つのビジョンになっています)

①歪みがない事業・関係性をつくる
②わくわく感を大切にする
③違いこそを組織の力に変える
④厳しく求め、支え合う
⑤みんなで会社をつくる
⑥すべてのステークホルダーと真摯に向き合う
⑦志を尊重する

それだけの時間をかけて練り上げていったビジョンですが、その過程や新しい取り組みをスタートさせ始めた約2年間で、そのビジョン策定に携わった社員のうち半分近くが辞めてしまったのです。
今だから話せることですが、当時は内心かなり焦りました。また、退職者の中には創業期や拡張期といった苦しい時代を一緒に戦ってきたメンバーもいたので、精神的にも本当にしんどい期間だったように思います。

だからといって辞める人たちを止めるというよりも、「策定したビジョンに共感してくれる方の採用をがんばろう!」とマインドを再セットして、次につながる行動を心がけていました。今思えば、これが組織改革におけるターニングポイントだったように思います。

組織の半分の仲間を失う。そんな大きな変化を受けても、ブレずにこの組織改革をやり通せた背景にあったのは、「つぎのアタリマエをつくる」という会社のミッションでした。

このミッションを実現するためには、Doing(やり方)よりもBeing(あり方)が重要です。だからこそ、みんなで考えたビジョンもバリュー的な“あり方”を問うものが多く、「これじゃビジョンじゃない」と言って組織を離れていった方もいたほど。
でも、そんなビジョンに共感した方だけが残ったことで、その後のカルチャーの浸透度は急激に高まりました。会社の採用方針や発信メッセージが定まり、当社のカルチャーにフィットした人材を採用できるようになった結果、新卒の定着率も24%→90%超まで改善することができたのです。(その結果、冒頭のミドルマネジメントへの負荷増大という課題につながるのですが…)

──まさに「雨降って地固まる」ですね。その後の改革はスムーズに進められたのではないですか。

そうなればよかったのですが、他にも苦労した点はいくつかありました。

例えばNaturaでマネージャー職を廃止する前段階として、③の変革期に組織を「逆三角形型」に変更したことがありました。具体的には従来の組織図を正反対にして、「マネージャーはメンバーのwillを叶える人」と定義し直したのです。マネージャーに求められるものが180度変わったため、ここで辞めてしまった方も正直います。それでも、この変化を挟んだからこそ現在のフラット型組織への改革が成功したとも言えるのです。

また前述した「全社員のグレード開示」も、当初はネガティブな反応が多く見られました。各人の評価や階級がフルオープンになるわけですから、無理もありません。しかしこれらの反応は、運用する中で徐々に解消されていきました。というのも、情報がフルオープンであるが故に「何を頑張れば目標バンドへ昇格できるのか」が明確で、ネクストアクションが具体的&ポジティブになるからです。評価がブラックボックスだとこうはいきません。

──紆余曲折がありながらも徐々に組織を変えていったと。組織変革における「人事の役割」はなんだと思いますか?

「人事の役割」それは、「変革の原液をつくりに行くこと」だと考えています。

最初から大きな変化を起こそうとしても、現場が混乱してしまったり、賛同が得られにくかったりすることは目に見えています。だからこそ最初は「モデルケース」とも言うべき実例を、小規模でいいのでつくりに行く必要があります。

いくら口で「〇〇という状態にしよう」と言ったところで、実際に形としてその状態や成果を確認することに勝るものはありません。まず実例をつくり、その実績に興味を持ってくれた人を巻き込んで、徐々に全体へ広げていく。これが結果的に大きな改革を生むと考えています。もちろん、人事が中心となって最初の実績をつくることもありますし、熱量のあるメンバーの想いをサポートしてつくりにいくこともあります。いずれにしても、その起点となる原液をつくるのが、まさに「人事の役割」なんだと思います。

また「同じような改革を大企業でもできますか?」と聞かれることがあります。確かに一度に変えるのは難しいですが、同じマインドの方と一緒に、まずはモデルケースをつくりに行くことができれば、当社と同じように徐々に改革を進めていくことはできるはずです。

NPでの改革が前に大きく進みだしたのも、社員の半分近くが辞めてしまってからでした。ショッキングな出来事ではありましたが、結果的に似たマインドを持った方ばかりが残ったことで、改革を進めやすくなったのは確かです。その当時の組織規模は50名程度で、大企業でいえば一部署くらいに該当します。この程度の規模からであれば、マインドを揃えた上で改革を進めて行きやすくなると思います。

導入から2年半。感じる「成果」と見えた「課題」

──Natura導入から早くも2年半が経ちました。その成果や課題を今、どう捉えていますか。

まだまだ道半ばではありますが、当初考えていた「理想の組織像」に徐々に近づけているなと感じています。

また最近の新型コロナウイルスの影響を受け、「Naturaを導入してよかった」と思うことがいくつもありました。当社もリモートワークに切り替えるなどで対策をしてきましたが、業務がオンラインに置き換わってもほとんど影響がなかったのです。よくリモートワークではコミュニケーションが減ってしまう等の課題が挙げられますが、「全員がマネージャーのように」あらゆる情報や人とコミュニケーションがとれる体制が整っていたこともあり、そこでのストレスはほぼありませんでした。オンライン環境を意図して導入した制度ではなかったものの、結果として変化に対応しやすい組織になっていたようです。

ただ、「オンボーディング」についてはまだまだ課題が残っています。2020年度は新卒34名がジョインしてくれましたが、彼らは入社当初からリモートワークを余儀なくされました。Naturaによりコミュニケーションルートが一定整備されているとはいえ、オンラインのみで組織風土やカルチャーを伝えていくことや、既存社員と関係性をつくっていくことは容易ではありません。

そこで最近は、従来は合宿のような形で行っていた相互理解の場をオンライン上で作るようにしています。オンラインでフィーカ(休憩・お茶をしながら雑談する場)やランチ会を実施したり、サードスペースと言って業務外の交流時間を設けたり。「オンラインでは難しいからやっぱりオフラインでやろう」ではなく、オンラインでもできる方法はないかと考えて工夫し実践する。それが組織の「つぎのアタリマエをつくる」ことにつながると思っています。

──NPの取り組みが「モデル」となって、世の中のアタリマエになるという感じでしょうか。

まさにその通りです。「つぎのアタリマエをつくる」というミッションは、事業だけでなく組織においても念頭においているもの。このNaturaのような取り組みも社外に広く展開し、当社だけの特別なものから一般のアタリマエへと育っていってほしいなと思います。

その上で1つお伝えしたいのは、「変革には時間がかかる」ということです。特に今、新型コロナウイルスの影響に対応するべく、スピード感を持って人事が対応に追われるケースは増えていると思います。そうすると他社の事例や表面的な実績を参考に、組織のフラット化やティール化を進めようとしてしまいがちです。

しかし、それらはあくまで「手段」でしかありません。当社が組織をフラット化したのも、あくまで組織のあるべき姿を考え続けた上で、実現するために必要だと判断したから。結果的にティール型のような組織が出来上がっていただけであって、最初からそこを目指して改革を行っていたわけではありません。この順序は間違えてはいけません。

実際にNaturaも、リリース前に5年かけて組織風土や文化をコツコツと積み上げてきたからこそ実現できたもの。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などの土台をしっかり整えてから、必要に応じて組織のあり方や形を、いろんな手段から選択して変えていく。それは当然、1~2年でできることではありません。その前提に立って、じっくりと取り組んでほしいテーマだと思います。

編集後記

このNaturaの取り組みは、IT業界だけでなく多方面からも注目を集めており、秋山さんのインタビュー記事も多く掲載されています。しかし、華やかにも見えるこの大きな組織改革の成功の裏には、長きに渡る土台作りの歴史と、数多くの苦労の積み重ねがあったことを、今回の取材を通じて知ることができました。

「手段と目的を間違えないで」と秋山さんが話すように、どれだけ早い変化を求められる時代であっても安易に手段に飛びつくことなく、組織の本質を考え続ける。それが現代の人事には特に求められているように思います。

Category : 企業インタビュー
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