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人事のノウハウ

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)は浸透させるものではない?成功例から、本質を理解する

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皆さんは、ミッション・ビジョン・バリュー(以下MVV)と聞いて何を思い浮かべますか?「うちの会社にもあるけど、誰も覚えてない」「額に入ったものが社長室にだけ飾られている」という方も少なくないかもしれません。

“絵に描いた餅”になりやすいMVVですが、きちんと定めることができれば組織を大きく成長させる源になるものです。特に拡大フェーズにあるスタートアップでは、MVVを明文化することで大きく飛躍したという事例も多くあります。

そこで今回は、組織コンサルタントとして上場企業のリーダーシップ開発・組織開発などの実績を持つ畑 俊彰さんに、実際の事例なども含めてお話を聞いてみました。

<プロフィール>
畑 俊彰
外食・サービス業を中心に投資・経営支援を行うコンサルティング会社にて、約60企業の業績改善、人材育成を経験。その後、大手企業の経営企画部に移り、経営計画の策定等を主業務としながら、ビジョン策定・組織風土の改革・異業種リーダー研修の企画運営・ベンチャー企業との協業検討etc、様々な組織横断プロジェクトをリーダーとして牽引。現在は人材開発・組織開発を支援する会社にて、大手企業を中心に、次世代の経営を担うリーダーの育成・組織全体の変革の両面において、企業変革の支援を行う。
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ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは

───まずはMVVの定義と、企業に与える影響を教えてください。

企業によってもMVVの定義や使われ方は異なりますが、概ね以下の理解でよいと思います。

■ミッション(Mission)=組織の社会における使命・目的(=なんのために存在するのか) 
■ビジョン(Vision)   =組織が実現を目指す未来の姿 
■バリュー(Values)  =組織メンバーの行動・判断の基準となる価値観

MVVが組織に定着し、うまく運用されるようになれば、以下のような効果が期待できます。

・組織内外のコミュニケーションにおける共通言語になる
・社員(経営陣~現場社員)にとって、迷った時の行動や判断の軸になる
・社員1人ひとりの帰属意識、効力感などを高められる

私が最初に勤めた会社は、日常的な上司・部下のやりとりや、チーム内の会話でもMVVが飛び交うような組織でした。誰もがMVVを自身の判断軸にしており、それを体現することが各自のモチベーションの源泉にもなっていたように思います。

こういった効果を期待して、私の元にも「形骸化している経営理念を見直したい」「改めて経営理念を浸透させたい」という依頼をいただくことが多くなりました。

依頼いただくケースとして多いのは、拡大・成長フェーズにある企業です。創業期は社員数も少なく、全員が同じ課題感やビジョンを持ちながら目の前の事業に向き合っていることもあり、MVVが明文化されていなくても問題ないことが大半です。

しかし、企業がひとたび事業拡大&成長フェーズに入り、組織規模も50名・100名と大きくなっていくと、組織の足並みが揃わなくなってきます。「会社のビジョン・戦略が見えない」「経営陣が何を考えているのか分からない」こういった声が社員から聞こえてきたら、MVVを明文化するタイミングかもしれません。

組織の足並みが整わなくなる時期を乗り越え、さらに成長していくためにも、MVVを策定し運用していくことはとても有効です。経営陣を含めた社員1人ひとりが判断や行動の軸としての拠り所になっている・より高いモチベーションで仕事に打ち込めている・社員1人ひとりにとって事業が「ジブンゴト」になっている。このように「MVVが組織に浸透している」状態になれば、一層の飛躍につながるでしょう。

MVVを効果的にするために知っておくべきこと

───MVVの重要性については理解できましたが、それが組織全体に「浸透」することは簡単ではないように感じます。具体的にはどのように進めていけば良いでしょうか。

MVVの浸透に関する方法論やポイントは、検索すればあらゆる情報がヒットします。例えばこんなところです。

・経営者自らがMVVを語り、体現し、活動を支援すること
・MVVへの認知と理解を促進すること(例:クレドや映像、冊子、ワークショップの展開) 
・MVV経営コンセプトを体現するような事例を見つけ、スポットライトを当てること
・仕組みの埋め込み(評価・登用基準、認知・賞賛の基準、定期的な振り返りの場)

これらの方法論に異論はありません。ただ、こういったポイントを抑えつつ他社が実践している仕組みのマネをすれば、組織の一体感や活力は取り戻せるのか?社員のモチベーションが上がり、自律的な組織をつくれるか?というと、答えはNOです。

MVVの運用で失敗するパターンはいくつかありますが、ここでは3つほど紹介します。

①MVVの見直し・浸透は「課題解決の万能薬ではない」

MVVを見直すということは、それにより解決したい組織課題があるからです。その課題に立ち返った時に、果たして本当にMVVが形骸化していることが要因なのか、またはMVVが見直され浸透すれば、課題解決に直結するのかを改めて考えて欲しいと思っています。

というのも「MVVを見直したい・再浸透させたい」という依頼をいただいても、内容を確認するとその打ち手自体がズレていることが多くあるからです。

例えば、あなたが「日々業務に追われ、仕事と家庭のバランスを崩し、人間関係もうまくいかず、日々モヤモヤしながら働いているイチ社員」だとします。そんなときに経営陣や人事から「こんなMVVを策定しました!」と示されたとして、果たしてあなたは仕事に対するモチベーションやエンゲージメントを上げられるでしょうか。

MVVの見直し・浸透という打ち手は、組織の課題解決の万能薬ではありません。解決するべき問題をちゃんと見極め、それに応じた対策を取る。MVVに限ったことではありませんが、この基本をまずは抑えて欲しいと思います。

②  「浸透させる」という誤解

私個人の考えとして、MVVを「理解させる」「浸透させる」という言葉を経営陣や人事が無意識に使っている時点でアウトだと思っています。なぜなら、その言葉自体に現場との距離感や信頼不足を感じるからです。そんな距離感の遠い・信頼のない人からいくら素晴らしいMVVを語られたところで、受け手の心に響くことはありません。

つまり、「何を語るか」よりも「誰が語るか」が大事だということです。MVVの内容云々の前に、そのメッセージが社員に届くだけの信頼関係を築けているのかどうか。築けていないのであれば、まずそこからスタートすることが、課題解決においても有効な手立てとなるはずです。どんなに見栄えのいいコピーを作っても、信頼関係のない社員には響きません。社員の声を聞く、聞いたら変えていこうとする意志を示すなど、「信頼関係」の土台を築くことは何よりも大切です。

③組織のMVVを押しつけがち

経営陣や人事が練りに練ったMVV。その気はなくても、つい押しつけたり強要したりしてしまいがちです。具体的には【図A】のように、それぞれの価値観を会社・組織のMVVに取り込んでしまうような形を指します。これでは健全な組織とは言えません。

これだけ生き方や働き方の価値観が多様化している世の中、大切なのは「社員が持つ価値観と、組織のMVVの一致点がどこにあるのか」を探る姿勢です。【図B】のように一致点がちゃんとあれば、不一致点があったとしてもまったく問題ありません。「この部分は一致しているけれど、考えが異なる部分も当然あるよね」ということを互いに認識した上で議論できること。そんなオープンな組織づくりができていれば問題ありませんが、そうでなければMVVを策定したとしてもそれ以上の組織成長は望めないでしょう。

MVV策定プロジェクトの具体的な実例

───これまで畑さんが関わったプロジェクトから、「紆余曲折ありながらも成功へと導いた事例」について教えてください。

ある分野の世界トップシェア製品を持つメーカーから依頼を受けた時の事例をご紹介します。

依頼内容

「事業領域も拡大し、組織規模も100名規模になった。そこで企業理念を見直し、さらなる事業成長に耐えうる組織基盤をつくりたい」

上記が、同社役員の方からの依頼でした。

ファーストアクション、そして気づいた本質的な課題

まず私たちは経営幹部+αのメンバーと一緒に、「半年後の創業記念日に合わせて実施される合宿で、再構築したMVVを発表しよう」という段取りを考えました。しかし、準備を進める中で、合宿への参加者が想定の半分程度しか集まらないということが明らかになりました。

「このまま合宿に突入したら、確実に失敗する」と考えた私たちは、各事業部のキーマンにインタビューをすることにしました。すると、こんな現場の声が見えてきたのです。

・新たな施策にしろ、組織変更にしろ、いつも決まった結果だけが示される
・議論の過程が全く見えず、目的がわからない
・社内で他部署や経営陣に対しての悪口が溢れている

「経営に対する不信感」とまではいかないかもしれませんが、少なくともそれぞれの社員が「モヤモヤ(=不安や不満)」を抱えていました。経営陣と現場の大きな乖離。ここに本質的な課題があると気づいたのです。

解決策の再考・そして再アクション

現場インタビューで得た肌感覚も踏まえ、合宿の目的を「MVVを発表・説明する場」から「MVVを見直すために、会社の現状と未来をみんなでざっくばらんに語り合う場」に変えることにしました。するとその実施目的がちゃんと伝わり、ほぼ全員の社員が参加してくれることになったのです。

実際に合宿の中では、創業から今までに起こった様々な出来事を一緒に追体験したり、社員1人ひとりがこの会社にどんな魅力を感じているのか?反対にどんな違和感があるか?などを率直に吐き出してもらったりしました。

結果

同合宿に参加してくれた社員からは、こんな言葉をもらいました。 

「自分のやっていることが、会社の未来とどう繋がっているのか。ずっとそこに自信が持ち切れなかった。でも、今回色々と話をしたことで、今やっていることは創業の頃から社長がずっと実現したかったことなんだと改めて気づくことができた。これなら自信と誇りを持って取り組める

 「この合宿で経営陣から明確なMVVを示されたわけではない。でも、だからこそ“自分がこの会社をどうしていきたいのか”を考えることができたし、組織の問題を“ジブンゴト”として捉えられるようになった」 

ちなみにこれは後日談なのですが、合宿後に社員の中から「自分たちもMVVの見直しに関わらせて欲しい」という声があがり、彼らが中心となって新しいMVVを作り上げていくことになりました。

同社の場合、「信頼感の欠如」や「漠然とした不安や不満」が事業・組織成長の足かせになっていました。MVVを上から押しつけるのではなく、ざっくばらんな対話を通じて社員と一緒につくりあげる形に変えたこと。それが組織内の壁を崩し、ジブンゴト化に成功した要因だと考えています。

対話の場を設けることは少し勇気が要りますが、会社を想うメンバーであれば、率直に話せる機会を設ければ話したいことが出てくるものです。
一方的なコミュニケーションではなく、社員が思っていることを言葉にできる場・そして経営陣が、社員の声を素直に聞く姿勢を持つことは非常に重要です。

編集後記

「MVVは課題解決の万能薬ではなく、あくまで社員と会社の一致点を見つけるための手段」

畑さんがそうおっしゃる通り、MVVは社員とコミュニケーションを深める手段なんだと感じました。もしあなたの組織でMVVが浸透しておらず、ただ額に入れて飾られているだけだとしたら。それは経営陣と現場に大きな壁があると考えて間違いないでしょう。

時にMVVは「理想論だ」と批判されることもあります。しかし、そんな現実とのギャップに恐れることなく、ありたい姿を社員同士で語り合い、どう実現していくかを考える。本質的な信頼関係は、そういった過程から生まれるものなのかもしれません。

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