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MBO(目標管理手法)がマッチする組織と、しない組織の違いとは

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MBO(Management by Objectives)は、日本でも多くの企業が取り入れている目標管理手法のひとつです。世界的に有名な経営学者のピーター・ドラッカーが1960年代に提唱した理論で、著書『現代の経営』の中で「支配によるマネジメントを自己管理によるマネジメントに置き換えること」がMBO最大のメリットであると述べています。

しかし、昨今ではOKR(Objectives and Key Results)という目標管理手法も広がりを見せており、何が一番自分たちの組織にフィットするのか、どう運用していくべきなのかを迷われる人事担当者の方も少なくないかもしれません。

そこで今回は、上場企業からスタートアップまでさまざまな企業の組織・人事変革を支援する片岡 匠さんに、MBOについて、OKRとの違いも踏まえてお話を聞きました

<プロフィール>
片岡 匠/トランスフォーム合同会社 代表
大学卒業後、リクルートに入社。その後ベンチャー企業の営業・人事責任者を経て、マーサージャパン、コーン・フェリー・ジャパンにてコーポレートガバナンスの強化や組織・人事変革に関するプロジェクトを多数リード。2020年に独立後、上場企業からスタートアップまで、さまざまな企業のコーポレートガバナンスの強化と組織・人事変革を支援する。

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MBO(Management by Objectives)とは

───片岡さんはMBOをどう捉えていますか?一般的な定義に加え、個人のお考えも教えてください。

MBOは、現在の日本では「人事や業績の評価手法」を表す人事用語として有名です。しかし、1960年代にドラッカーが提唱した際には、経営(マネジメント)の手法として認知されていました。

この違いが生まれた背景には、導入時の経緯があります。MBOは1960年代に欧米各国で導入され、同時期に日本でも紹介されましたが、最初は定着しませんでした。その後1990年代以降に成果主義的な人事制度に付属する形で再導入され、一般に広まったのです。

こうした経緯から、本来持つ「社員の主体的な目標設定・管理面」よりも、「成果を評価する面」が強調されてしまったように感じます。

MBOは正確には「Management by Objectives and Self-control」と、最後に「Self-control」 が付きます。この点が、「目標を与えられ、マネジメント(管理)される」のではなく、「社員が主体的・自律的に目標を設定・管理し、そうした取り組みを通じてマネジメント(経営)していく」というMBOの本来の意味を表しています。

───MBOは、本来の意味とは少し違った形で一般認知されてしまったのですね。

はい。それが日本においてMBOが「社員の主体性を引き出していない。単なるノルマ管理になっている」という批判を浴びる要因となっているように思います。また、それに加えて、「運用上の不備」によってMBO自体を誤解している方も少なくありません。

社員が主体的・自律的に目標を設定・管理していくためには、現場レベルのサポートが必要不可欠です。例えば、上司と部下の間でコミュニケーションを密に行い全社目標と個人目標の整合性を取ることや、部下のモチベーションを高めつつ本人の主体性を尊重し目標の達成を支援していくことなどが挙げられます。

ところが、実態としては上司・部下間のコミュニケーションが希薄で一方的に目標伝達だけがなされる等、ノルマ管理と変わらないという事態に陥っているケースも少なくありません。こうした「運用上の不備」が原因で、MBOの持つ本来の特性を十分理解されないまま、誤った認識を持っている方も少なくないのではないでしょうか。

MBOは正しく運用できれば、メリットが多くある手法です。社員の主体性を促し高い成果を目指すことや、目標に対する達成度の測定が比較的容易なので、昇進昇格への活用も可能です。MBOの本質をしっかりと理解した上で、運用方法を検討していくことが重要です。

具体的な運用方法(評価内容・方法・基準の設定など)

───MBOを導入する場合、具体的にどのような運用をしていくべきでしょうか。

MBOの一般的な実施プロセスは以下の通りです。

期初

まずは経営陣や部門長などの組織長を中心に、全社および各部門の組織目標を設定します。この際、中期経営計画等を策定している企業であればそれを活用できますが、ない場合には予め策定しておく必要があります。

策定した組織目標を従業員へ共有する際には、その策定背景を説明することはもちろん、達成により実現する世界観やビジョンも併せて伝え、共感を生み出すことが大切です。というのも、個々の社員が自身の目標に対する当事者意識を強く持つためには、組織目標への理解と共感が必要不可欠だからです。ここは経営陣・部門長の大事な役割であり、腕の見せ所でもあります。

社員が個人目標を作成する時には、上司の指導等は必要ありません。あくまで本人が組織目標に基づいて、目標設定のガイドライン(※注1)を参考に作成します。その後、上司と部下で面談し、作成したものの妥当性を以下3点に留意して検討していきます。(必要に応じて加筆・修正を加えて確定)

・目標設定がSMART(※注2)に沿っているか
・組織目標と個人目標の整合性が取れているか
・難易度のレベルが高すぎないか(または、低すぎないか)

※注1:目標設定のガイドライン・・・
最低限、以下の3点を定めたガイドラインを用意しておく。
①個人目標の構成・配分(個人目標はどのような要素で構成されるか、その配分はどの程度か)
②個人目標の作成方法(職種×階層別に、どのような個人目標の設定が望ましいか、または望ましくないか、その定義と具体例)
③目標の評価指標とその基準の定義(目標の評価指標は何段階か、またその基準の定義は)

※注2:SMARTとは・・・
以下5つの用語の頭文字を取ったもの。
Specific(具体的に)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能な)、Related(経営・組織目標に即した)、Time-bound(時間制約がある)

期中

個人目標の進捗状況を確認すると共に、今後どのように取り組んでいくか、上司や組織として支援が必要なことがないか等を話し合います。
少なくとも1カ月に1度程度はこうしたコミュニケーションの場を設けておくと良いでしょう。その際、MBOの本質の1つである「Self-control」をより促すためにも、部下が現在の状況をどのように認識しているかを上司は把握することが大事です。そして、必要な打ち手や支援は何かを部下が主体的に語り、相談できる場と関係性作りも特に意識する必要があります。

期末

期初と同様、まずは部下自身が目標の達成状況について評価し、その後の面談で上司と共に自己評価結果の妥当性を検討していきます。この時、部下による自己評価と上司による評価が異なることがありますが、問題ありません。ただし、上司はそのギャップが生まれた理由を明確に把握しておく必要があります。そして面談後、最終的に組織としての最終評価を確定します。企業によっては評価会議を開き、一定の役職者が全体の評価バランスを調整することもあるでしょう。

MBOがマッチする組織、しない組織

───MBOがマッチする組織とそうでない組織には、どんな違いや特徴がありますか。

MBOは世界中のあらゆる企業で運用されているポピュラーな制度ということもあり、基本的にはほとんどの企業で導入可能です。一方で、MBOを導入したものの運用がうまくいかない企業には、例えば以下のような特徴が挙げられます。

①組織目標が頻繁に変わる組織
②フラット化された組織
③上位下達式のマネジメントが浸透し、社員の主体性を育まない組織

①組織目標が頻繁に変わる組織

高頻度で組織目標が変わる場合には、MBOで設定した個人目標もそれに応じて変更せざるをえません。環境変化の激しいテクノロジー企業やスタートアップなどがこうした組織の典型です。せっかく立てた目標が変わる可能性が高い場合は、MBOで想定している運用サイクルや手法とは相性がよくありません。

②フラット化された組織

ティール組織のように極限までフラット化され、組織の階層化を意図的に排除した組織には、MBOは馴染みません。MBOは、目標を「全社目標>部門目標>個人目標」へとブレークダウンしていくことで、組織階層の縦の連鎖を効果的に繋ぐ特徴があります。しかし、フラット化された組織では、組織階層が薄くなり経営トップとの直接のコミュニケーションの場が増え、変化し続ける中でいかに目標設定と実行を素早く回していくかが重視されます。そのため、こちらもMBOで想定している運用サイクルや目標設定方法には馴染みません。

③上位下達式のマネジメントが浸透し、社員の主体性を育まない組織

上からの指示・命令だけで組織を動かしている企業では、MBOの持つ特性の1つである「主体的・自律的な目標設定・管理」が実現できません。そのため、こうした企業では形式的にMBOを導入することは可能であってもMBOの持つ本来の効果を得ることは難しいでしょう。

OKR(Objectives and Key Results)との違い

───最近ではOKR(Objectives and Key Results)を導入する企業も増えました。MBOとOKRの違いは何でしょうか。

MBO OKR
主な導入の狙い ・組織目標と個人目標の整合性

・社員による主体的な目標管理

・評価/報酬決定の妥当性

・ハイレベルな組織目標の達成

・組織全体の成長

測定方法 定量/定性/定量+定性 定量のみ
評価サイクル 半期or年度に1回 週次単位以上
共有範囲 上司・本人間 全社員
達成基準 100% 60〜70%
取り入れる際の組織条件 ・組織目標が頻繁に変更されない

・複数階層の組織

・社員の主体性を尊重し促す風土

・全社レベルの壮大な目標の存在

・個々人の重要な達成指標を、60〜70%達成が妥当なレベルの目標に設定できる

※OKRについて詳しくは▶こちら
導入時に守るべき型、カスタマイズして導入した事例などをご紹介しています。

OKRは、目標管理という意味ではMBOと似ていますが、実際には以下2つの大きな違いがあります。

①高頻度で組織目標を設定し、モニタリング、評価実行のサイクルを回す(MBOの場合、半期〜年度に1回の周期で評価実行)
②目標設定の難易度を、相当なストレッチをかけたレベルに置くこと。60〜70%達成が評価基準(MBOの場合、100%達成したかどうかが評価基準)

先程述べたように、MBOはあらゆる企業で導入が可能ですが、OKRは前提として以下2点を備えた組織でなければうまく機能しません。

①全社レベルの壮大な目標が存在すること
②目標達成に向けた個々人のアクションを、業務プロセス・オペレーションに落としこめること

①全社レベルの壮大な目標が存在すること

OKRの導入の目的の1つは、組織全体としてのハイレベルな目標の達成が挙げられます。目標の達成難易度が高ければ高いほど、現状からの積み上げ型の手法ではなく、目標から逆算した手法が有効です。

例えば、J.F.ケネディー米国大統領によるアポロ計画では、「10年以内に人間を月に送り、帰還させる」という壮大な目標を掲げ、そのために必要な取組みを行う、逆算型の手法で見事に目標を実現させました。これをきっかけに壮大な目標を「ムーンショット」と呼ぶようになりましたが、こうした目標を組織として掲げているか、というのが要件の1つ目です。

対照的に、積み上げ型でもある程度実現可能なレベルの目標は「ルーフショット」と呼ばれます。どちらが優れている/劣っているということではなく、まず会社としてどのような目標を掲げているかという点を確認する必要があります。

②目標達成に向けた個々人のアクションを、業務プロセス・オペレーションに落としこめること

上記①の要件を備えた上で、そうした壮大な目標の達成に向けて、個々人の取り組みの達成具合を計る指標を、60~70%達成が妥当なレベルで設定することができるかどうかを検討する必要があります。しかし、これは、2つの観点で難易度が高いものです。

1つは、各個人の職務内容を踏まえた上で、目標達成の観点から経営上の重要度を定め、優先順位をつける必要がある点です。こうした業務を行える方としては、経営者本人か経営者と同じ目線で経営上の重要度を見極め、優先順位付けを行える役職の方でないと正確な判断は難しいと思います。こうした方々の積極的な関与が重要になってきます。

もう1つは、そうした個人の目標に落とし込んだ時に、60~70%達成が可能なレベルで設定するための基準をどのように定めるか、という点です。100%達成であれば設定は比較的容易ですが、60~70%達成の基準は人によってその捉え方も異なります。達成基準を感覚的ではなく、いかに明確な根拠に基づいて設定するか、その妥当性が問われます。

以上の点を踏まえた上で考えると、私自身はOKRをダイレクトに人事評価に活用することには慎重な立場です。

MBOよりもOKRの方が運用難易度は高いと考えているため、MBOをうまく運用できない企業が安易にOKRに飛びついたとしても、まずうまくいくことはないでしょう。「OKRが良いらしい」といった流行や新規性だけで導入を検討するのではなく、組織が実現したい目的に照らし合わせて、最適な手法を選択することが重要です。

オススメ本(3冊)

──MBOについて学びたいと思っているHRパーソンに向けて、オススメの書籍があれば教えてください。

現代の経営/P.F.ドラッカー(著)

冒頭でもご紹介した通り、MBOの本質を理解することができる一冊。単なる「目標管理」ではなく、自主的・自律的な組織・個人をどのように実現するかというドラッカーの思想の根幹を把握しておくことは、MBOを運用する際にも役立つはずです。

組織設計概論―戦略的組織制度の理論と実際/波頭 亮(著)

人事制度を議論する際に、そもそも戦略や組織の在り方自体を考えなければならないことがあります。そうした際に、前提となる戦略と組織の繋がりや、その基礎となる考え方を取り上げているのが本書です。出版から時間が経ち、事例はやや古いものが多いですが、組織設計の考え方を学ぶために活用されることをオススメします。

戦略人事のビジョン~制度で縛るな、ストーリーを語れ~/八木 洋介 、金井 壽宏(著)

「管理のための人事」ではなく、「経営のための人事」を理解し、実践したいと考える人に向けて書かれた本です。人事パーソンとしての在り方についても書かれており、既に人事経験が豊富な方もこれから人事を始める方にとっても、人を扱うプロフェッショナルとしてのあるべき姿を理解できる一冊となることでしょう。

編集後記

目標管理や評価は、組織に置いて最も重要なことの一つ。人事にとってはずっと試行錯誤が続くテーマです。

短期的な成果が見えづらいが故に、新しいことにチャレンジしようとしてしまいがちですが、トレンドに流されるのではなく、自社の社員の能力を引き出すための土台としての「目標管理・評価制度」を作ることが何より重要だと、今回片岡さんのお話を伺う中で感じました。

正解はないので時間がかかりますが、長期的な視点を持って試行錯誤し続けることが、より良い組織づくりには必要です。MBOをすでに導入している場合にも、一度目的に立ち返って運用を見直してみると良いかもしれません。

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